下地毅「ルポ東尋坊」緑風出版

福井県東尋坊は、観光名所です。
そして自殺の名所でもある。
東尋坊には「救いの電話」と呼ばれている公衆電はボックスが2台ある。
ここに十円玉と「NGO 月光仮面」という名刺を置き、週に2回のパトロールをしている人たち。パトロールは、“月光仮面”一人で始めたが今ではここでご縁があった人たちも参加している。
扶養の義務すなわち家族の仕送りは生活保護の申請者を窓口で追い返したり利用者を制度から追い出したりする強力な武器にも、家族との絆を紡ぎなおすきっかけにもなる。
生活保護法第4条第2項は家族から仕送りがあった場合は、生活保護費から控除するといっているのに過ぎないのに、水際作戦で「家族からの仕送りはもらえないんですか」と窓口から追い返す。そして生活保護になったらなったで、硫黄島作戦で「〇〇は自己負担になります」と締め付ける。
ようやく座った窓口。助けてもらうというみじめな敗北感。それと強烈な自我と鋭敏な感覚。支援の手か厄介払いか、即座に見抜く。
厚生労働省によると、不正受給は件数で1~2%、金額で0.4%。不正の手口も、子供のアルバイト収入を申告すべきだとは知らなかったという誤解が多い。不正受給は毎月統計を発表するからマスコミが報道する。では捕捉率が低いことは、調べてもいないし発表もないから報道しない。

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令和元年度 第4生活保護について 厚生労働省(別 紙)より
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生活保護-日本弁護士連合会

学校にいくいかないは、ほんの入り口にすぎなくて、その中で甘えたり甘えられたり傷つけたり傷つけられたりしながら他人との距離をとる技術を身に着けていく。そうした技術なしに社会に出されると、他人との距離がうまくつかめず、居づらくなってささいなきっかけて飛び出してしまう。職場も余裕がなくなって、統制に外れる人を厳しく排除するようになる、うまくいかない人を自己責任の言葉一つで切り捨てて考えようとしない。
私も自分の経験に照らしてみると、本社が現場の一挙手一投足までマニュアルで縛ろうとするんだけど、マニュアル通りにやることを覚えるのに精いっぱいになった挙句、判断力を養う機会がないまま、マニュアルで対応できない事態にぶち当たって玉砕、という職場の持って行き方、持って行かれ方が苦しくて、それも一因となって離脱した身に、うまく適応できない人たちの語りは身に沁みました。
法律原文を示し、その解釈を、立法すべてに関わった小山進次郎課長が出版した「改訂増補生活保護法の解釈と運用」や「生活保護低調」を参照しながら説明しつつ現実の窓口対応の経験を語るなど、自己を見つめる客観性を常に保持する筆者の一貫した態度は信頼できますね。
60歳になったリカコが語る「なぜ私が安定しているかっていうとね、私は15年間のDVから解き放たれた、DVがない幸せを感じている。でもみんな理想が高すぎる。自分の置かれた立場や境遇を度外視して人並みを求めるから、そのギャップで崩れるんだろうね。どこかで妥協しないと」
東尋坊の崖は高い所で25メートル位。思ったほど断崖絶壁ではないそうです。